«

5月 15 2014

サービスに関わるいくつかの法則(1)

コンベンションの誘致や開催の経験を積めば、ある意味勘が養われ、どのようなタイプの主催者には、どのような視察プログラムを組めばいいか、どのような会議には、どのようなアトラクションの演出を提供すれば効果があるかなど分かってきます。単に経験だけではなく、相手の心をより理解しようとすればその勘もより養われて行くことはいうまでもありません。しかし、コンベンション誘致や、開催の運営方法において、場当たり的な意思決定を行ってしまうとしばしば大きな失敗を招くことがあります。これは、商売において消費者の行動の法則を理解しないことに起因するのと同じであり、経済学や経営学、また心理学等のあらゆる知識を得ていれば回避できることもしばしばです。今日から、3回のシリーズで人間の行動に関わるいくつかの法則を紹介し、コンベンション誘致力、開催力をアップできるキーワードや実例について紹介します。

 

(1)損失回避の法則

ヨーロッパ大手の航空会社KLMで実際に起こった事例を紹介します。KLMのベテランパイロットが起こした史上最悪の飛行機事故があります。その日、ヨーロッパのある空港でテロ騒ぎがあり、航行中の全ての飛行機が最寄りの空港に着陸待機するように指令があり、そのベテランパイロットも最寄りの空港に着陸し、待機していました。その時間を有効に活用し、またこの待機により、後に発生するだろう遅延をできるだけ避けるために待機中に給油をすることにしました。すると、しばらくして霧が出始めて、もしかしたらこのまま旅行客と一晩を空港で過ごし、損失を招くかもしれないと頭をよぎりました。そこで、給油が終わったところで、まだこの状態なら離陸が可能だとベテラン機長は判断し、管制官の指示を振り切り滑走路への飛行機を動かし、離陸の準備に入りました。もうこのときには十分に霧が濃くなり、視界が悪い状態でした。しかし、機長は自らの判断に間違いはないと信じて、スロットルレバーを操作し、エンジン出力を最大にしました。そのまま、離陸できれば良かったのですが、滑走路の途中で立ち往生をしているパンナム機を発見し、もうそのときには泊まれないスピードになっていました。機長はなんとか離陸しようとし、この飛行機の機首は一見パンナム機の上を通過したように見えましたが、機体の傾きが大きかったため、胴体下部が接触しました。このKLM機は、先ほど燃料を満タンにしたばかりで、墜落した後、乗客は全員死亡してしまう大惨事となりました。このように、経験により判断した結果が、最悪の結末を迎えることになるのです。もし、機長が燃料を満タンにしていなかったら、機体は軽く接触しなかったかもしれません。または、経験上、霧が濃くなると予想したのですが、そうはならなかったかもしれません。このような、人間の行動を「損失回避の法則」と言います。小さな損失を何としてでも避けようとすることにより、大きな損害の可能性を見落としてしまうこともあるのです。それは、経験が邪魔をすることがおおく、成功体験が被害想定を邪魔してしまうということです。同様の例は身近にあります。例えば、交通違反の際に、おとなしく捕まれば、反則金で済むのに、逃走しカーチェイスの末に、ひき逃げや当て逃げ、信号無視等を繰り返し取り返しのつかない状況を作ってしまうというニュースを時々聞きます。これは、人間が、何かを得るよりも、失う方の痛みを強く感じるという性質を持つからです。その損失リスクを回避できるなら多少の犠牲を払うことを躊躇しなくなる訳です。さらに、途中失敗があっても、それを取り戻そうとします。つまり、損失が大きくなればなるほどそれを嫌うということです。しかし、それを回避するためにしばしば不合理な行動をとってしまうのが、損失回避の法則です。例えば、観光業界でもあります。旅行のピークの時期に、旅館やホテルのシェフがやめてしまい、料理がいつも通りに出せない状況でも、一旦受けた予約をホテル側からキャンセルすることはしない、すなわち、失う痛みを感じていて、その結果、衛生状態が悪くなったり、未熟なシェフを雇ったりして食中毒などの被害を出してしまうというような例です。また、それを隠蔽しようとして、結果的に大きな損失を被るという悪循環に陥る例は、考えられることです。携帯電話の契約でも同じで、従量制と使い放題の2つのプランがあるときに、多くの人が使い放題のプランを契約するのも損失回避の法則から来ています。もしかしたら使いすぎるかもしれない、その場合多額の利用料になってしまうと頭をよぎると、一年間で数回しか使い過ぎがなく、トータルの支払額で計算すると、使い放題プランのほうが高く付くことを気づかないようになります。まあ、そういう私も使い放題を選んでますが。

 

(2)損得の心理

しばしば消費者の行動は理解ができないことがあります。こういう話があります。スーパーマーケットのたまごの価格の例ですが、いつもは一パックの卵が200円で売られているとします。そのときの消費者の損得に関する行動を考えてみましょう。一つは、安売りセールで、1割引になった場合の購入量と、もう一つは、需要増(または供給減)のため、1割高くなった場合の購入量です。前者の時に購入者がいつもの卵の価格200円のときより、1割増えたとします。そう考えれば、後者については、購入者はいつもの1割減または同程度の減少と推測しがちですが、結果は、3割も4割も購入者が減ることがわかっています。これは、得をするより、失う方が痛みを余計に感じることに起因する消費者の行動です。消費者の行動だけではありません。宝くじで、番号を6つ当てるくじがありますが、このくじを実際には買わずに、遊びで友人とお互いに当選番号を予想するゲームを下とします。アメリカの「メガミリオンズ」という宝くじなら本当に買っていたら、一等賞金は100億円以上も珍しくはありません。心の中では、どうせ当たらないので、買わないと思って友人とゲームをしていた数字が、もし的中したらどうでしょう。なんか100億円損をしてしまう気分になってしまうのではないでしょうか?損得の心理について、航空券の例を挙げましょう。昨今、激安航空会社(LCC:Low Cost Carrirers)が注目を集めていますが、果たしてそれを選ぶのが本当に得なのでしょうか?安易に得だと考えてしまえば大きな落とし穴が待ち受けています。しばしば、LCCが欠航になってクレームをつけている人がいますが、当然LCCは規定どおりの対応しかしません。欠航したときだけではなく、通常時にもLCCには多数の制約があります。そのいくつかを挙げますと、(1)予約は原則ウェブサイトで行う(電話だと有料)、(2)空港が離れた場所にある、(3)空港のチケッティングカウンターは離れた場所にある、(4)搭乗券をプリントアウトし忘れたらカウンターで有料発行、(5)預け荷物は原則有料、(6)搭乗口も離れた場所にある、(7)待ち時間が長い、(8)キャンセル時でも振替便やホテル代は出ない、(9)機内のシートピッチが狭い、(10)清潔さ、クルーのレベルにより精神的ダメージが大きい、(11)機内サービスは有料、(12)ビジネス/ファーストクラスラウンジが存在しないなどです。それを、欠航率や遅延率を考慮してレガシーキャリアと金額で換算した比較を行うと、なんとレガシーキャリアのほうがお得だったりすることもあります。時間が十分に使える学生などは、LCCはトータルで得が多いこともありますが、忙しい時間を割いて旅行をしたり、出張をしたりする人にとっては、LCCに乗るたびに1万円以上を潜在的に失う結果が簡単な計算で確認できます。例えば、LCCの遅延率は30%またはそれ以上でも珍しくないのに対して、日本のレガシーキャリアの遅延率は5%前後です。年に20回搭乗すると考えて、LCCだと6回、レガシーキャリアだと1回遅延していることになります。そこで金額換算して考える際の要素は、(1)遅れた時間分の労働の対価(時給いくらか)、(2)遅れた便が深夜便の場合で、終電が終わっていた場合に、タクシーを使ったり、朝までターミナルで待ったりするときのコストなどがあります。また、狭い機内での精神的苦痛(腰を痛めた場合の薬代)なども考えれば、結局レガシーキャリアのほうが得な場合もあるのです。一見して、トータルとして、チケットの価格差は2倍かそれ以上あるかもしれませんが、金額で示されると具体的であり、印象にのこります。それが、旅行者に対して、目先の損得に執着してしまい、差額には何が含まれているかを考慮させず、LCCを選ばせる要因になるのです。